札幌高等裁判所 昭和38年(ネ)263号 判決 1967年3月30日
控訴人 日下博 外二名
被控訴人 国
訴訟代理人 山本和敏 外四名
補助参考人 中央カオリン株式会社
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴審での訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、札幌通産局長が、昭和二七年一月二六日、訴外安藤庄治郎外三名の申請に基づき鉱種名「耐火粘土」の採掘権の設定を許可し、十勝国採登第四五号をもつてその設定登録をしたこと(以下「第四五号採掘権」という)、現在右採掘権を補助参加人中央カオリン株式会社が所有していること、同局長は昭和三〇年一月二七日、補助参加人の申請に基づき鉱種名いずれも「耐火粘土」の各試掘権の設定を許可し、十勝国試登第一八三四号および同第一八三五号をもつてその各設定登録をなしたこと(以下「第一八三四号および第一八三五号試掘権」という)、控訴人三名は鉱種名「金、銀、銅、水銀」の十勝国採登第二一号および鉱種名「金、銀、水銀」の同第二四号の各採掘権(現在鉱区分割によりそれぞれ十勝国採登第九六号、第九七号および同第九八号、第九九号、第一〇〇号となつている)を共有しており、右各採掘権は、昭和一二年六月二一日および昭和一八年五月一〇日付をもつてそれぞれ登録されていること(以下「第二一号および第二四号採掘権」という)、第四五号採掘権、第一八三四号および第一八三五号試掘権の各鉱区と第二一号および第二四号採掘権の各鉱区とか重複関係にあること、札幌通産局長は、補助参加人の所有する各鉱業権はその目的鉱物が控訴人ら所有の各鉱業権の目的鉱物と異種鉱床中の鉱物と判定して前記のとおりその鉱業権の設定許可処分をなしたこと、はいずれも当事者間に争いがない。
そして、<証拠省略>の結果によると、補助参加人所有の第四五号採掘権および第一八三四号試掘権の各鉱区は、いずれもその約九〇パーセントが控訴人ら所有の第二一号および第二四号採掘権の各鉱区と重複しており、補助参加人所有の第一八三五号試掘権の鉱区は、その約七〇パーセントが控訴人ら所有の第二一号採掘権の鉱区と重複していることが認められる。
二、控訴人らは、右鉱区重複関係にある地域において、金、銀、銅、水銀と耐火粘土とは同種鉱床中の鉱物であつて、前記安藤外三名および補助参加人のなした採掘権および試掘権設定許可申請はいずれも同種鉱床中の鉱物についての後願にほかならず、鉱業法第二九条、第三〇条により重複申請として却下すべきものであるから、右規定に違反してなされた前記採掘権および試掘権設定許可処分はいずれも重大かつ明白な瑕疵を帯び無効である、と主張するので判断する。
<証拠省略>の結果を総合すると、次の各事実が認められる。
(一) 前記鉱区重複関係にある地域には金、銀、銅は極めて微量しか賦存せず、右鉱物の鉱床はまつたく存在しないこと、
(二) 鉱区重複関係にある地域における水銀の賦存状況は、極めて地表に近い主としてモンモリロナイトを産出する部分に脈状に存在し、もつぱら露天掘により採掘されて来たものであるが、その品位は低く、かつ、その鉱量も乏しく経営上採算がとれないため昭和二五年頃からほとんど稼行されていないこと、他方、耐火粘土は、珪質頁岩を帽岩として地表より約二〇メートル以下に賦存し、その採掘にあたつては抗道を開設しなければならないこと、
(三) 成因については、本件地域における水銀鉱物は珪化帯中を低温かつアルカリ性熱水溶液が上昇交代して母岩に変質作用を加えることにより、耐火粘土は母岩(流紋岩質凝灰岩)が高温かつ酸性の熱水溶液の上昇に伴う分解作用によりそれぞれ生成されたものであると想定されていること、
(四) 補助参加人が現在耐火粘土採掘のため稼行している個所において、耐火粘土の賦存部分の一部に水銀鉱物が鉱染している事実はあるが、その大部分の品位は含有率〇・一パーセント以下の低品位なものであり、また、含有率の高い部分も僅かに存在するが、その賦存は極めて少量で数屯ないし十数屯を越えないものと推定され、我国における採算可能な水銀鉱床の限界品位が含有率〇・二五ないし〇・三パーセントであることから到底稼行の対象となり得ないものであること、
以上の諸事実が認められ、<証拠省略>他に右認定を左右すべき証拠はない。
鉱業法においては、同一地域であつても異種鉱床中に存する鉱物を目的とする場合には、二以上の鉱業権を設定することができるものとされているところ、同種鉱床と異種鉱床との具体的判定基準についてはなんら規定するところがないが、鉱物資源の合理的開発という鉱業法の立法趣旨に照らし、鉱物学的見地からして鉱物の成因および賦存状況を異にし、鉱業の実態上複数の鉱業権が相互に妨害することなく別個に稼行できる場合には異種の鉱床中に存する鉱物と解するのが相当である。
上記認定の事実によると、本件の鉱区重複関係にある地域においては、金、銀、銅は極めて微量しか賦存せず、その鉱床は存在しないのであるから問題とならず、水銀鉱物と耐火粘土との関係については、右両鉱物はその成因を異にし、珪質頁岩を境にしてその上部と下部にそれぞれ賦存して両者は共存せず、水銀鉱物は露天掘により稼行され、他方耐火粘土はその採掘にあたり抗道を要するもので、このような採掘方法の相違により両鉱物の採掘は相互に支障を来たさないのであつて、本件耐火粘土を水銀鉱物とは別個の鉱業権の対象とすることが鉱業の実態に適し合理的と認められるから、右耐火粘土は水銀鉱物とは異種鉱床中の鉱物と認めるのが相当である。
三、そうだとすると、札幌通産局長が上記鉱区重複関係にある地域において、金、銀、銅、水銀と耐火粘土は異種鉱床中の鉱物であるとしてなした上記各鉱業権設定許可処分はいずれも正当なもので、右処分の無効確認を求める控訴人らの本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当として排斥を免れない。
よつて、右と同趣旨の原判決は相当で本件各控訴はいずれも理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条、第九三条、第九四条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 杉山孝 田中恒朗 島田礼介)